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故に世の中おもしろい(時刻表の旅、ほんものの贅沢)

時刻表の旅、ほんものの贅沢

 
私の愛読書は「JTB時刻表」(JTBパブリッシング)である。1925年、日本旅行文化協会から「汽車時間表」として創刊されたのが始まり。2019年5月号で1200号。月刊誌としては最長老だろう。部数は約6万部ある。

ネットで即座に時刻を調べるのもいいが、時刻表の魅力は一覧性にある。前後を発着する列車の時間や他の路線をすぐに調べることができる。巻頭の路線図や駅弁情報も満載だ。

単なる「数字の羅列」ではない。鉄道を題材にした数々のエッセーを残した作家の故・宮脇俊三さん(1926〜2003年)も愛読者だった。出版社勤務時代に国鉄全線を完全乗車した宮脇さん。会社をやめた1978年、北海道の広尾から列車を乗り継いで鹿児島県の枕崎に向かった。

とはいえ、普通の行程ではなかった。最短経路なら2764.2kmだが、あちこち回りながら同じ路線を二度通らず南下する「最長片道切符」の旅である。距離にして1万3319.4km。地球の直径に近い。
時刻表を読み込んだからこそ達成できた壮大な旅と言えるだろう。その足跡をユーモアあふれる筆致でつづったのが「最長片道切符の旅」(新潮文庫)である。
宮脇さんは時刻表を「百年を越える日本鉄道史上に作り成された大交響曲」とし、「限られた時間のなかでいかに効率よく乗るかを探ろうとするとき、時刻表をひもどく楽しみは限りないものとなる」と書いた。
ほんものの贅沢と言えるかもしれない。新緑の季節。時刻表を眺めつつ、きままな旅に出るのもいい。

朝日新聞編集委員 小泉 信一




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