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故に世の中おもしろい(蜃気楼と乱歩)

蜃気楼と乱歩

 
いささか季節は違うが、桜の花が散り、新緑がもえるころ、北陸地方の富山湾では蜃気楼(しんきろう)がよく観測される。雪解け水に冷やされた海水が暖かい空気にふれ、光を屈折させる現象である。

蜃気楼の「蜃」とは巨大なハマグリのこと。竜に似た想像上の怪物である。その吐き出す妖気でつくられた「楼閣」が蜃気楼だと、いにしえの人々は考えていた。

大気に映る形状はさまざま。だが中でも、作家の江戸川乱歩が描写したような蜃気楼は実に迫力がある。
1929(昭和4)年に著された短編「押絵(おしえ)と旅する男」にこう書いている。
「乳色のフィルムの表面に墨汁をたらして、それが自然にジワジワとにじんで行く」

「押絵と旅する男」は、魚津で蜃気楼を見た「私」が帰りの夜汽車の中で、風呂敷に包んだ押絵を抱えた不思議な男と出会う物語だ。男には兄がいたが、兄は押絵の中の美少女に恋い焦がれ、ついに絵の中に入ってしまったという。

虚構と現実が交わる悲劇。全編幻想的な雰囲気に彩られた作風。シュールレアリスティックな感覚や恐怖描写に共感する読者は多いにちがいない。乱歩が生きた時代とは違うが、ネット上にあふれるフェイクニュースも、現実と虚構との境が分からなくなった人たちが作り上げた世界と言える。

「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」

乱歩は色紙に好んでそう書いた。甘くけだるい春の日。蜃気楼を夢想しながら北国の海を眺めるのもいい。ゆるゆると移ろいゆく季節に我が身をゆだねる。

朝日新聞編集委員 小泉 信一