歴史をつくる言葉の力
選手を奮い立たせる言葉の力――日本が優勝したワールド・ベースボール・クラシックで、改めてその及ぼす力を実感しました。
なかでもリーダーのメッセージは格別でした。
「野球ぐらいで落ち込む必要ないと思います」。1次リーグで不振だった選手に、こう話したのはチーム最年長のダルビッシュ有投手。きっぱりとしたその物言いには、大リーグの修羅場をくぐり抜けてきた経験と気分転換を促す配慮がにじみでていました。
一方で自分の登板には感謝と感慨をこう表現しました。「ここ(日本)で生まれ育って、おかげで今がある」「これが(日本での登板は)最後になるかもしれないと思って投げた」。チームに参加し、まとめ役を買って出た目的と思いがしみじみと伝わりました。
決勝を前に仲間へ語りかけた大谷翔平選手の言葉も忘れ難いものでした。「憧れるのはやめましょう、きょう1日だけは。憧れてしまったら越えられない」。大リーグのスター選手がそろう米国に気負うことなく挑む言葉が、選手としての器を示していました。
思い出すのは17年前の第1回大会。リーダーのイチロー選手の言葉は「向こう30年は日本に手を出せないなという感じで勝ちたい」でした。趣旨は目前の相手に全力を尽くすプロフェッショナリズムですが、これが急速に力をつけてきた韓国を刺激し、壮絶な日韓戦へとつながります。
そうした試合を見て育ったのが今大会の中心選手たちでした。伝統はこうした積み重ねの上にこそ作られる。そんな気がします。
朝日新聞論説委員 西山良太郎