寝ても覚めてもすぽーっ!(脱炭素社会とモータースポーツ)

脱炭素社会とモータースポーツ

最高速度は軽く300km/hを超え、ドライバーはカーブや急制動で5G、6Gの重力に耐える。5Gでも体重70kgなら負荷は350kgに及ぶ計算です。そんな常人の想像を超える自動車レースのF1にホンダが2026年から復帰します。

燃料電池車など、脱炭素化技術の研究開発に技術者や資金を振り向けたい。そう言ってホンダが4度目の撤退を発表したのは3年前でした。短期間での復帰宣言に驚きと違和感をもつ人もいるでしょう。

地球温暖化で自然災害のリスクは高まり、脱炭素を迫る声は大きくなる一方です。欧米や中国など巨大市場も車の規制強化を進めています。なのになぜ、電動モーターとのハイブリッドとはいえ、ガソリンを使う内燃機関のF1なのか。

大きな要因はF1の規定変更です。26年からバイオマス由来など脱炭素燃料の使用に加え、エンジンの出力を下げ、電動モーターとの比率を8対2から5対5に変えるからです。

ホンダはこれに合わせて参戦し、モーターやバッテリーなど一般車に応用する技術開発につながる、と説明しています。独アウディや米フォードといった企業も参戦の予定です。

日本や中国のように火力発電の多い国では車体製造で電力消費量が増えれば温暖化ガスの排出量が増えかねない、といった事情もあるでしょうか。脱炭素の流れは急でも、一直線に進めるわけではなさそうです。

持続可能な社会に合う車の形とは。そこにモーターレースはどう貢献できるのか。メーカーの知恵比べの正念場は続きそうです。

朝日新聞論説委員 西山良太郎