「エリート」の呪縛を解き放て
2世選手は大変だ。そんな漠然とした思いを長く抱いてきました。
きっかけは1990年代のプロ野球取材でした。巨人の長嶋一茂選手とヤクルトの野村克則選手。2人への期待と評価には、つねに長嶋茂雄、野村克也という球史に残るスターだった父親との比較がついて回りました。しかもチームの監督がその父親です。2人の振る舞いの端々に、言葉にし難い孤独を感じました。
まして伝統社会の大相撲で3世代となれば重荷は格別でしょう。1月の初場所後に大関となった琴ノ若は母方の祖父が先代の佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)、父は師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)です。
鳥取県倉吉市出身の祖父は、激しい突き押しが持ち味で異名は「猛牛」。引退後は有望力士を探して全国を訪ね歩き、角界有数の大部屋に育て上げました。
山形県尾花沢市出身の父は191cm、181kgの大型力士で有望視されましたが、師匠の定年のため、余力を残しながら現役をやめて部屋を継ぎました。
自宅が相撲部屋で、2歳でまわしを締めた琴ノ若には、力士は自分で選んだ道のようで他に選択肢はなかったのかもしれません。
体格は父とほぼ同じ。相撲の柔らかさが特徴でしょうか。7年前に亡くなった祖父からは、大関で琴桜襲名の許可をもらっていましたが、春場所ではしこ名を変えませんでした。琴ノ若の名前を「大関に上げたかった」そうです。
父を超え、次の目標は祖父が32歳でたどりついた横綱。26歳の琴ノ若には挑む時間が十分あるはずです。
朝日新聞論説委員 西山良太郎