指導者の背骨が見える時
目にとまったのは、今季就任したプロ野球・ロッテの吉井理人監督によるチーム改革の記事でした。
「意見は違っても、何も悪くない」。最初のスタッフミーティングでは付箋(ふせん)を配り、チームの長所と課題を書き出すよう求めたとあります。就任会見では「指導者と選手は本当は対等でないといけないと思う」とも話したそうです。
5年前の著書「最高のコーチは、教えない。」を読むと、新監督の方針は気負いとは無縁の、指導者の骨格だと理解できます。
指導の眼目を①観察し②質問を重ね③選手になり代わって考える、と分析。個性を見極め、質問によって感覚を言語にする力をつけさせる。そこでは選手が理解できるよう相手の身に置き換えて考えることが不可欠――。選手の考える力を育むことが役目だと考えていることがわかります。
土台となっているのは、自らの経験論を振り回す指導者たちの姿と、42歳で引退してコーチに就いた時、気がつけば同じことをしていた自分への反省でした。
そこから大学院でコーチングを一から学び直した異色の経歴の持ち主です。著書では大リーグのメッツ時代に、「自分のことは自分が一番よくわかる、だから一緒に考えよう」と求めてた、日米の指導者の姿勢の違いに触発されたこともつづっています。
自分を論理的に説明するのは容易ではなく、様々な角度から自分のフォームを見ると選手の多くは驚くそうです。サラリーマンも電話をかける姿や営業の姿を一度ビデオで撮ると、発見があるかもしれません。
朝日新聞論説委員 西山良太郎