現場一期一会(谷村新司さんの自筆歌詞に思う)

谷村新司さんの自筆歌詞に思う

和紙に墨で書かれた歌詞を読むと、そのメロディーが頭の中で流れ、中高生時代を思い出しました。

シンガー・ソングライターの谷村新司さんが秋に亡くなりました。デビューは半世紀前の1972年でした。竹ペンで越前和紙に書いたとされる30曲の歌詞が、宮城県気仙沼市内で保管されています。

谷村さんはテレビ番組の企画で、歌手生活25年を記念して、代表曲の歌詞を集めた豪華本を自分のために作りました。本をてがけたのは世界的な製本装丁家である欧州出身の女性と日本人男性の夫婦です。その際、もう一組を、夫婦用に書いてもらったそうです。

夫婦は市内の住宅街に谷村さんが亡くなる直前、小さな美術館をオープンさせました。その開館を取材した際、「こんなものもある」と夫婦が見せてくれたのが、手書きの歌詞でした。まさかすぐに悲報に合わせて紹介するとは思っていませんでした。

本人の強い希望で竹ペンで書いたという筆文字は厚手の和紙の上を柔らかく流れるようです。30曲書いて、書き損じは一つもなかったそうです。「言葉を大切にした」という人柄が筆跡からも伝わります。

谷村さんの歌詞で自分の青春時代を思い出しました。ギターを買ってもらい、谷村さんら「アリス」の曲を練習しました。FMから流れる曲をラジカセで録音し、自分だけの「お気に入りテープ」を作りました。インベーダーゲームが流行した時代でした。

半世紀にわたって時代を彩った谷村さんの歌は永遠に色あせないでしょう。

朝日新聞気仙沼支局長 山浦 正敬