読書の秋に考えた視線の向き
読書の秋。地元の図書館に、その日に返却されたばかりの書籍を並べたかごがあります。分類して書庫に戻される前の本です。
最新の流行本ではないものの、いま読まれている本を知るのに便利です。
「失われたTOKIOを求めて」
赤い表紙の「インターナショナル新書」が目に留まりました。作家高橋源一郎さんが東京を歩き、過去の思い出や今をつづります。
見慣れた街を改めて歩いたきっかけが冒頭に紹介されています。
日課の散歩を、ふと逆向きに歩いたら、風景がまったく違って見えた。
記者の仕事に重ねてしまいます。東日本大震災から13年半余り。被災地と首都圏を転勤で3往復しました。そのたびに視線も関心も変わります。
被災地の話を外へ伝えたい。でも、外の関心と必ずしも一致しない――。どちらを向いて記事を書くかでしばしば自問します。
失った宮城県南三陸町役場の元課長がいます。今も東京など各地に出向いては、命を守るための備えの大切さを訴えます。
最大の懸念が、命の危機が迫っても逃げるのをためらいがちな立場の人の避難です。
「職業的な使命感が強いため、最後は上司が『避難しろ』と指示するぐらいじゃないと難しい」
病院や福祉施設が念頭です。震災から時間が経つのに、次の巨大地震に備える社会的な検討が進んでいないと危惧します。
社会全体で考えたいテーマに自問は不要です。
朝日新聞立川支局員 山浦 正敬