トランプ・ジュニア氏も破壊者か
英語のenhanceは強化する、高めるといった意味ですが、スポーツではドーピング(禁止薬物の使用など)による競技力向上の趣旨でも使われます。そのドーピングを推奨する国際大会「Enhanced Games」が今、議論を呼んでいます。
オーストラリアの実業家による提案がきっかけで、トランプ米大統領の長男ジュニア氏らの投資会社が多額の援助を表明し、実現に向けて動き出しました。
大会は来年5月、米ラスベガスで、陸上が100㍍や110㍍障害、競泳も50㍍、100㍍の自由形など短距離中心に行い、重量挙げも実施する計画です。
国際オリンピック委員会や世界反ドーピング機関はこれまで、選手の健康や競技の平等性からドーピングを否定し、対策に膨大な労力をかけてきました。この大会も当然、強く批判しています。水泳や陸上の団体も6月、参加者は厳しく処分すると表明しました。
誤解を恐れずに言えば、多くの選手が医科学を駆使して能力の限界に挑み、その練習や生活がどこまでが健康的なのか、微妙に映る時はあります。安全と危険のもの差しも、時代によって変わるかもしれません。しかし、どこかで一線を引くことは必要でしょう。
主催者は「従来の価値観への挑戦」を掲げ、トランプ・ジュニア氏も「スポーツを永遠に変える運動を支援できることに誇らしく思う」と発言。常識や仕組みを覆してきた父親と同様、引く気配はありません。
スポーツ界が譲れぬテーマに、公然と挑む大会の行方が気になります。
朝日新聞論説委員 西山良太郎
