現場一期一会(レトロなフィルムカメラと「お恵さん」)

レトロなフィルムカメラと「お恵さん」

「新聞が書くころ、若者の流行はもうピークを過ぎているさ」

昭和時代に先輩記者が自嘲気味に語っていた話です。若者の間では今、昭和レトロブームだそうです。

時代の波にもめげず、フィルムカメラを手にしてきました。愛機は入社時に取材用として購入したニコン「New FM2」。すべて機械式なので、撮影に電池は必要ありません。過酷な現場でも大丈夫です。

手動でピントを合わせ、絞りを調整し、シャッターを押す。動きのある被写体の時は特に大変です。

オートではないので失敗もあります。焦点がぼけ、光が足りずにまっ暗。フィルムの装着忘れもあります。

かつてのフィルムは白黒。自ら現像して印画紙に焼き付けていました。

60代の私らの幼少の写真はほぼ白黒です。カラー写真の普及は1970年代から。デジタルカメラが爆発的に広まったのは2000年代になってからです。

白黒写真の時代だった1963年に岩手県釡石市の呑のん兵衛横丁で居酒屋を始めた「お恵さん」が昨年末に亡くなりました。86歳でした。半年前までカウンターだけの小さな店を1人で切り盛りしていました。

釡石は製鉄所の企業城下町です。戦後復興から鉄冷え不況、東日本大震災とジェットコースターのような浮き沈みです。閉店時に半生を振りかえる記事に添えた昔の写真は、やはり白黒でした。

お恵さんが同業者の先頭にたって乗り越えた大震災からまもなく15年です。本当にお疲れ様でした。

朝日新聞立川支局員 山浦 正敬