感性豊かな審判を育てたい
審判の難しさを実感する機会がありました。
開幕1カ月余りのサッカーJ2山形–岡山戦で、味方のバックパスが山形のゴールへ。GKは右腕から飛び込み、間一髪はたき出して防ぎました。しかし、残念ながら手の使用は厳禁のケース。主審はGKに退場を命じ、岡山には間接フリーキックを与えました。残り80分を10人で戦った山形は0–1で敗れました。
ところが2日後、Jリーグは再試合を決めました。
競技規則では自分のペナルティーエリアでGK が認められていないのに手や腕で球を扱えば間接フリーキッで、懲戒の罰則は与えない、と定めています。
明確ですが、条文には続きがあり、プレー再開時に相手の決定的な得点機会を阻むGKの行為があれば懲戒の罰則が与えられる、とも書いています。
前者だけの適用で済むケースですが、主審に加え他の審判員も気がつきませんでした。案外混乱しやすい文章かもしれません。
そもそも人間はミスの可能性から逃れられません。Jリーグより早くビデオ判定を導入したプロ野球は、判定が覆る「誤審」が約3割ありました。それでも審判からは「重圧が減った」と歓迎の声を聞きます。
正確さは大事ですが、サッカー審判育成に関わってきた英国のレイモンド・オリビエさんは試合への共感を重視し、「感情のないロボットではいけない」とその理想像を日本協会のインタビューに答えています。
選手の能力と競技の魅力を引き出す感性豊かな審判を育てる環境作り。それが次の課題だと思います。
朝日新聞論説委員 西山良太郎