青空古書市で手にした先輩の文章読本
ついに在宅勤務です。新型コロナ感染ではなく自転車で転んだ結果です。不覚にも足の骨を折りました。松葉杖をつき、頭に浮かんだのが読み始めたばかりの「文章の書き方」(岩波新書)という本の一節です。
著者の辰濃和男さんは朝日新聞社の大先輩で、天声人語を担当していました。
記者を34年やっていてもまだ道半ば。先輩からヒントを探そうと青空古書市で手にしました。
「現場――見て、見て、見る」という項があります。文章を書く準備として、いかに現場の観察が大切かということを訴えています。その中に、松葉杖が出てくるのです。
辰濃さんは取材中、船から砂浜に飛び降りた際に転んで足の骨を折ったそうです。そして松葉杖で街に出て気づいたそうです。いかに階段が多いか、車の出入りのために斜めに削られた歩道がいかに歩きづらいかです。出版時の1994年はバリアフリー化が進んでいませんでした。
「松葉杖で歩くことは、私にとって、新しい現場を体験する事でした。大都市の構造の『個性』について、いろいろ考えることができたのは、現場を体験したおかげです」
さて、私がまず気づいた現代の「個性」は、スマホとのつきあいです。杖で両手がふさがるので、自動改札機もコンビニでの支払いも一苦労です。片方の杖を外し、スマホを取り出してからピッです。後ろに続く人の視線が気になります。
先輩とは次元が違いますが、「現場」をいかに文章につなげるか。まさに骨を折る覚悟です。
朝日新聞さいたま総局長 山浦 正敬