アスリートの分水嶺
どれほど優れたアスリートも、引退から逃れることはできません。そこにどう向き合うのか――。
「成績、タイトルでやり残したことはない」と2月の引退会見で言い切ったのは、車いすテニスの国枝慎吾さんでした。世界ランク1位のままでの決断にはテニス人生の「美学」を感じますが、昨季の全米オープンでは翌年の出場を口にしていたのも国枝さん自身でした。
米アメリカンフットボールのQBトム・ブレイディさんも、似た印象が残ります。7度の全米制覇を達成した45歳は2月、「引退する。永久に」と発表しました。実は昨季も終了後に引退を宣言。その後撤回して復帰、今季も縦横無尽の活躍で現役続行の期待をファンに抱かせていました。
対照的なのは現役を続けるサッカーの元日本代表、三浦知良選手です。56歳のシーズンをポルトガルで迎えます。所属クラブの思惑は別として、求められる限り、いつでもピッチに立てるよう最善の準備を重ねる姿勢は変わりません。
突出した才能が避けられない関門に葛藤する姿や、ストイックさで抗あらがう姿。どちらも心は揺さぶられるものの、「別世界の話」のようでもあります。
共感を覚えたのはトップレベルの実力を維持したまま2月で勝負服を脱いだ騎手の福永祐一さん。「名残惜しい」といいながら、昨年合格した調教師へと予定通り春から転身です。
競技人生と残りの人生をパラレルで考えてきた福永さんの姿勢は、アマチュア選手やファンにも参考にできるかもしれません。
朝日新聞論説委員 西山良太郎